• テキストサイズ

【銀魂裏】秘蜜の花園【短編集】

第1章 甘い野獣(銀時甘裏)


それからしばらくの間、俺はいつも以上にぼうっとしていたと思う。
「銀さん、美咲さんの件、ストーカーも捕まって、報酬も入って、本当に良かったですね」
「でも美咲姉と一緒にゴハン食べたりできなくなってちょっと寂しいアルな」
「仕方ないよ、美咲さんはあくまでお客さんなんだから」
俺は新八と神楽の会話もろくに耳に入っていなかった。

これで全て丸く収まったはずなのに。
彼女が恋人のフリをしながら買ってくれたビターなチョコレートを口にしても、苦さばかりが舌に残る。
いちご牛乳を温めて口にしても、かじかんだ心はほどけてこない。

と、その時だった。
万事屋の電話が鳴った。
「はい、万事屋銀ちゃんです……え?美咲さん?どうしたんですか?」
その名前を聞いた途端、俺は新八から受話器を奪っていた。
「どうした?」
電話の向こうで、ぜーぜーという音が聞こえる。
わずかな沈黙の間にも最悪の事態がグルグル頭をかけめぐる。

「銀……さん?」
「おお、そうだ。どうした?何があったんだ?」
「あの……ごめんなさい、もう一つ依頼をお願いしていい?」
「何でも言えよ。今どこだ、どうしたんだ」
「……インフルエンザに罹ったかもしれないの……熱があって、体中が痛い……」
「おい!大丈夫か?」
「お願い、薬と、何か……食べ物を買って、届けてもらえますか……」
「あのウィークリーマンションにいるんだな?」
「そう……こんなこと頼んで、ごめんなさい……」
「謝らなくていいって。銀さんに任せとけ」
「……本当にごめんなさい」
唖然とする新八と神楽を尻目に、俺は万事屋を飛び出した。

わかってる、わかってるよ。
アンタが俺のこと、単なる便利屋だって思ってること。
でもな、男っていうのは、アンタを苦しめるだけの存在じゃないんだって。
弱いところも汚いところも、アンタの全てを心から愛する男だっているんだって。
それがわかってくれたら……ちょっとは、俺に愛情を向けてくれても、いいだろ?
/ 54ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp