第1章 甘い野獣(銀時甘裏)
最終的に逆上したストーカーが攻撃してきてくれたおかげで、俺はその男に一発くらわした後で真選組に引き渡すことができた。
「ストーカーを捕まえるのは俺たちの仕事じゃねェですぜィ……っていうか、旦那、一般人にこんな攻撃したら、このまま死にかねませんぜ」
と、総一郎クンはブツブツ言っていたが、
「正当防衛だっつうの!目撃者もたっくさんいるし!」
と言ったら、なんだかんだで連行してくれた。
「良かったな」
と思わず俺が彼女の方を振り向いて言った時、彼女は静かに泣いていた。
まずいことを言った、と後悔した。
いくらストーカー化したとはいえ、愛を捧げたこともある男が。
みじめな姿で警察に連行されるのを見るのは、何ともやりきれない思いだったはずだ。
「美咲ちゃん……」
「銀さん、私がいけなかったんだわ……」
「え?」
「私が、あの人をここまで追い詰めてしまったんだわ」
「……」
「私がもっとちゃんとあの人を受け止めてあげていれば……」
「ちげェよ!」
俺は彼女の肩をつかんで言った。
「あんたみたいないい女が、あんな男に人生をダメにされる必要なんてねえんだよ!ああいうのはな、あんたみたいな優しい女を狙って、自分の思い通りにしようとするタイプの男なんだよ!」
「……」
「俺は仕事柄、ああいう男に不幸にされる女を何人も見てる。あんたはそこから抜け出したんだ。あんな男に時間と労力使った分、これからは幸せになっていいんだよ!」
俺の言葉はどこまで彼女に響いただろうか。
彼女は寂しそうな笑いを浮かべた。
「ありがとう銀さん……、銀さんみたいな人に最初に出会っていれば良かったのかもね」
「……美咲ちゃん?」
「報酬は、振り込ませてもらいますね。本当に、ありがとうございました」
深々と頭を下げた彼女に、俺は返す言葉を持たなかった。
俺と彼女をつないでいた細い糸は、切れてしまった。