第2章 女泣かせの糸(高杉甘裏)
晋助さんにもらった撥で弦を鳴らす。
ああ、やはりいい音。
いい撥はいい音を出す。
ティッタラティッタラティン……
晋助さんは煙管を吹かし、だらりとした格好で座っていた。
新造の酌も断り、手酌でゆっくりと酒を飲んでいる。
万斉と名乗る連れの客は居住まいを正して聞いている。
見えないはずの視線が、緊張を強いた。
でもあたしは、その人の向こうにいる、晋助さんのために弾いていた。
聞いているのだかいないのだか、わからないように見えて、たぶん神経をこっちに向けている。
そう思うと、自然と撥の動きにキレが出た。
ティンティン……
細棹もいいけれど、子供の頃に慣れ親しんだふるさとの棹も、こんないい撥でなら、もっといい音が出ただろう。
弾きたい。
あたしは思った。
あんなに呪ったふるさとの三味線を。
晋助さんの前で、弾いてみたい。
不夜城の吉原にいるのに。
あの吹雪のふるさとを思い出した。