第2章 女泣かせの糸(高杉甘裏)
晋助さんの連れは、「万斉」と名乗ると、私の顔をまじまじと眺めた、ようだった。
ようだった、というのは、サングラスに隠れた目が何を見ているのか、こちらからはよく見えないからだ。
だが、晋助さんとはまた違った意味で、ただ者ではないことは感じ取れる。
おそらく背負っている三味線も、かなりの腕前なのではないか……。
そんなことを考えていたから、二人の会話はほとんど耳に入ってこなかった。
……
……
「晋助……結構正統派な好みをしてるでござるな」
「お前はもっと若い女がいいんだろ」
「おぬし、誤解してないか、俺は半平太とは違うでござるよ」
「あいつだったら、花魁じゃなくて禿を呼んでるさ」
「なるほど……しかし晋助。いくらいい音を奏でるとはいえ、拙者、閨の睦言を聞かされる趣味はないでござる」
「安心しろ。俺にもそんなのを聞かせて楽しむ趣味はねえ」
……
……
「おい」
晋助さんの声ではっと気がついた。
「こいつに三味線を聞かせてやってくれ」
なるほど、そういうことか。
あたしはぎゅっと手を握りしめた。