第2章 女泣かせの糸(高杉甘裏)
数曲弾き終わったところで、万斉と名乗る客が言った。
「おぬしの弾き方は、細棹のソレではないでござるな」
「え?」
「太棹……津軽の出でござるか」
言い当てられたのは初めてだった。
訛りも上手く隠していたのに。
驚きのあまり口もきけないでいたあたしに、その客は言った。
「細棹で合わせようと思ったが、考えが変わり申した。次に来るときは、太棹を持って来る」
「……」
「晋助、それでいいでござるな」
「フン……どうせ俺のは趣味の範囲だ。お前の好きにしろよ」
「まあ、そう怖い目をするもんではないでござるよ。そんな目で見なくとも、横取りする気はないでござる」
「……フン」
「そのために、もう一人花魁を呼んだのでござろう?」
「据え膳には喜んで手をつけるタイプだろう、お前は」
「それは否定できないでござるな」
そんなことを言いながら、若い花魁を連れて部屋を出て行く連れの客。
何が何だかわからぬままに、あたしは晋助さんと二人きりになった。
三味線を片付けようとしたあたしに晋助さんが言う。
「いや、もう少し聞かしてくれ」
「……」
「あんたの音を、独り占めしたくなった」