第2章 女泣かせの糸(高杉甘裏)
二日後にまた来ると言い置いて、晋助さんは帰って行った。
残されたあたしは、晋助さんの言葉を理解できずにいた。
どういうことなのだろう。
同じ店で別の花魁となじみになることはできない。
それがここ吉原のルールだ。
連れにあたしを会わせたいと言った。
それでいて、若い花魁も呼んで欲しいと言った。
乱交でもおっぱじめようっていうんだろうか。
でも結局花魁は、客の希望に応えるしかない。
あたしは三味線の巧い子に声をかけた。
晋助さんが太い客だということを知っている彼女は、二つ返事で承諾した。
二日後、約束通りやって来た晋助さんは、洋装の連れと一緒だった。
晋助さんのように、仕立てのいい着物でも身につけたどこかのボンボンかと思ったら、全く異なる風貌なのに目を見張る。
何しろ、髪は立っていて、部屋の中でもサングラスをしたままだ。
サングラスに革ジャンというスタイルなら、ギターでも背負っていそうに見えるが、どうやら背負っているのは三味線らしい。
だが、胸中がどうであれ、どんな客でも笑顔で迎えるのが、吉原の花魁の矜持というものだ。
あたしも若い新造も、笑顔で酌をした。