第2章 女泣かせの糸(高杉甘裏)
でも、そんな身の程知らずのことを考えていたばちはすぐあたった。
ある夜のこと。
「次に来るときは」
私の身体を後ろから抱きしめ、晋助さんは言った。
まるで晋助さんと二人、繭にこもっているような心地よさにまどろみながら、あたしは、
「え……?」
と答えた。
「連れを呼んでもいいか?おめえさんに会わせてえんだ」
その言葉はあたしの胸を鋭く貫き、一気にまどろみの中から引き戻した。
……それは、あたしをその人と共有する、ということだろうか。
確かに、一人の女を共有することで関係を深める男性もいると聞く。
かつての貴人が、自分の女を部下にあてがったのと同じことだ。
お気に入りの玩具を友達と共有するように、ちょっと気に入りの遊女を共有する。
女には絶対に理解できない感情だ。
そして晋助さんにとって、あたしの存在価値なんて、そんなものでしかないのだ。
ぎゅっと胸が痛くなる。
他の客にだったら、何を言われても気にならないというのに。
晋助さんに言われると、こんなに動揺してしまう。
「それで」
晋助さんはあたしの心も知らず、話を続けた。
「もう一人、花魁を呼んでほしい」
「……」
「そうだなあ、おめえさんよりは若い方がいいな」
「……」
「三味線が……弾けると……なお……いいな……」
それだけ言うと、晋助さんはあたしの背中にぴたりと身体をつけたまま、すうすうと寝息を立てはじめた。
あたしは凍り付いた心を抱えたまま、結局そこから一睡もすることなく、朝を迎えた。