第2章 女泣かせの糸(高杉甘裏)
それからしばらくの間、晋助さんは時々あたしのところへやってきた。
高価な品を持ってくることもあれば、地球では手に入らないという珍しい土産物を持ってきて目を楽しませてくれることもあった。
そして時折、あたしに三味線を弾かせた。
三味線に耳を傾け、煙管をふかす晋助さんの顔を見ているだけであたしは幸せだった。
触れられるだけで快楽に震えるあたしの身体を、晋助さんは淫乱な女と思っているかもしれない。
でもそれは、晋助さんだから。
睦言を囁かれ、身体ごと可愛がられ、何度も意識を飛ばして。
何も身につけない姿で二人、朝まで眠る。
あたしは人の肌のぬくもりの心地よさを、晋助さんに初めて教えてもらったのだった。
たかが遊女なのに、終わった後、抱きしめたまま寝るだなんて。
晋助さんの締まった腕に抱かれながら、あたしは、
好きになっちゃう。
と思った。
花魁と客。
その関係は決して変わらない。
でも、身体だけが目当てな他の客とは違って、晋助さんはあたしに逢いに来てくれているように感じた。
いや……、あたしが、そう思いたかっただけなのかもしれない。
だって、晋助さんほどの財力があれば、たとえ片方の目を失っていようと、どんな女だって選び放題に決まってる。
あたしみたいなんじゃない、もっと、ちゃんとした吉原の傾城……そう、たとえば日輪太夫だって振り向くはずだ。
それなのにあたしのところに来てくれるのは……それはつまりあたしのことを、少しでも、好いてくれているからだ。
そうやってあたしは、自分に都合のいい想像を重ねていた。