第2章 女泣かせの糸(高杉甘裏)
それから数日して。
晋助さんは店に来ると、唇に笑みを浮かべ、あたしに包み紙を手渡した。
つれない笑顔のようにも見えたが、褒められるのを待って、わざと表情を引き締めている、そんな風にも見えた。
可愛い。
あたしは包み紙の中身より、晋助さんの顔を見ていたかった。
「早く開けてみろ」
促されて包み紙を開けると、中には約束通り三味線の撥が入っていた。
だが――。
「晋助さん、こりゃあ……」
目を見張った私に、晋助さんはぶっきらぼうに、
「気に入らねえか」
と言った。
「逆でありんすよ。全部が全部象牙で、しかも全体が一つの象牙からできてる撥なんて、わっちの三味線にはもったいない」
「おめえさんにもったいねえかどうかは俺が決める。早いところ聞かせてくれ」
「……」
「ほかの花魁や芸者衆を呼ぶのも煩わしい。おめえさん一人でできるモンがいい」
「では……」
あたしは三味線を出し、糸を合わせた。
晋助さんは少し離れたところからそんなあたしの姿を眺め、手酌で酒を飲んでいた。
「イヨッ」
ザザンッ
心地よく糸が鳴る。
新しい撥は、意外にもすぐに手になじんだ。
高級な撥はそういうものなのだろうか。
こんないい撥を手にしたことのないあたしには初めての経験だった。
晋助さんは杯を唇に当てたまま、静かに聴いているようだった。
その所作は花魁のあたしが言うのもおかしな話だけれど、とても艶めいて見えた。
そういう客を前に色気のある曲を弾くのはなぜか気が引けて、あたしはどちらかというと勇壮な曲を選んだ。
唄うより弾くのが好きなあたしは、久しぶりに客の前で三味線が弾けて、ちょっと興奮していたのかもしれない。