第2章 女泣かせの糸(高杉甘裏)
そんなことがしばらく続いたある夜、あたしは帰り際の晋助さんにこう言った。
「晋助さん、あの、祝儀が多すぎでござんすよ。わっちは花魁道中をするような太夫ではありいせんし」
あたしが言うと、晋助さんは、一瞬右目を見張り、唇の端を上げて笑った。
「花魁に、祝儀を多く渡して文句を言われるとは思わなかったな」
「ごめんなんし」
「それだけの時間、おめえさんを拘束してるんだ。それでいいじゃねえか」
「でも酌をしているだけでありんすから……」
「おめえさんは、客から金を多くせびろうという商売っ気がねェのかい」
「太く短く来られても嬉しくはありいせん。同じことなら、細く長くおいでなんし」
「そうか。俺から長くせびろうって腹か」
からかうように言われ、あたしは困ってしまった。
「そういうわけではありいせん……ずっと晋助さんに来てほしいと……」
「ははは、嬉しいこと言ってくれるじゃねえか」
晋助さんはあたしの言葉を、花魁の手管だと思ったみたいだった。
そういうことではないのに。
そう思ったが、花魁風情が言葉を費やしたとしても、実のない言葉だと思われるのが落ちだ。
あたしは口をつぐんだ。