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【銀魂裏】秘蜜の花園【短編集】

第2章 女泣かせの糸(高杉甘裏)


そのとき、赤い灯に照らされた往来に、男が佇んでいるのに気づいた。

見馴れない顔だ。
背はそんなに高くない。
夜目にも生地が良さそうだとわかる紫の着流しに、首のあたりまで伸ばされた髪の毛。
手には煙管。
いかにも遊び人といった風情だが、その表情には凄みがあった。

その凄みを増さしめていたのは、左目に巻かれた包帯だった。
戦の刀傷か。
幼い頃に大病でもしたか。
いずれにせよ、顔にも心にも大きな傷を受けた、そういう男に見えた。

新しい客は、初見世(新人)に回されることが多いから、あたしのところには来ないだろう。

でも――。
格子の奥をじっと見つめるその右目に、あたしは不思議と惹きつけられた。
人を殺した、そう言われても不思議ではないような、そんな瞳に。

あたしの視線をどう受け取ったのか、客は口元を上げて微笑んだ。
凍りそうなほど冷たい微笑みだった。

このときあたしは、何にも気づいていなかった。
この客がどういう男であるかだけじゃない。
この右目から目を離せないでいる間に、
巣がけた糸に、あたし自身が絡め取られてしまっていたということでさえ。
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