第2章 女泣かせの糸(高杉甘裏)
今宵も格子の中から外を眺める。
口元には笑みを貼り付けて、
往来の男たちを何のあてもなくただ目に映しているだけの時間。
幾つもの宵をこうやって過ごした。
通り過ぎる男たちに媚びを売って喜ばれる年齢(とし)ではなくなっている。
格子の奥の方でぼうっと通りを眺めているあたしを見て、
以前はやかましかった遣手の婆さんも、あきれ顔を向けるだけになってしまった。
これから幾つの宵をこうやって過ごすのだろう。
七年のはずの年季は、なんだかんだで借金を重ね、もうここに連れてこられて十年になる。
花魁としても、随分トウが立ってしまったあたし。
この格子の中から出られるとすれば。
あたしの命が終わったときかもしれない。