第1章 甘い野獣(銀時甘裏)
さすがに焦った。
春雨だろうが、血の雨だろうが、どんだけ降っても傘もささずに歩いてやるけど。
女の哀しい涙に濡れるのは……本当に苦手だ。
泣くぐらい嫌だった、ということか。
俺は死ぬほど後悔した。
男に苦しめられて、俺のところに助けを求めてきたというのに。
また彼女を傷つけてしまったのだろうか。
おれはもう、何をどうしていいのかわからなくて。
とにかく謝りたくて。
彼女の細い身体を抱きしめてしまった。
「ぎ……銀さん?」
「ごめんな。……美咲ちゃんは、俺のこと、単なる便利屋としか思ってないだろうけど。俺は、恋人のフリじゃなくて、本当の恋人だったらどんなにいいかって思ってた……」
顔を見て言う勇気はない。
俺もとんだヘタレだな。
「だから……すまなかった。傷つけるつもりなんて、なかったんだ」
彼女は俺の言葉をどんな気持ちで聞いていたのか。
「銀さん……ちょっと苦し……」
俺はハッとして腕をゆるめた。思わず力を入れてしまっていたらしい。
彼女は下から俺の顔をじっと見据えた。
瞳がうるんで艶々と光っている。
形の良い唇は、俺が蹂躙したせいで少しはれぼったくなっていた。
その唇が、静かに開く。
「私も……ずっと、銀さんが私の本当の恋人だったらいいのにって思ってたの」
「……」
「銀さんが……好き、です……」
俺は信じられない思いで、彼女の顔に触れた。
この彼女が、俺のことを、好きだって言ってる。
そんなことが。
俺の理性の箍は、完全に外れてしまった。