第1章 甘い野獣(銀時甘裏)
何が起きたのか、一瞬わからなかった。
チョコに手を伸ばそうとした途端、腕を引かれ、身体が倒れ込んだ。
気がつくと銀さんの顔がとても近くにあって、銀さんに抱きしめられているのだ、ということがわかった。
でも、
「そっちじゃなくて、こっちのチョコだって」
という声がしたかと思うと、銀さんの顔はまた見えなくなった。
キスされているのだ、とわかったのは、銀さんの舌がチョコレートとともに私の口の中に入ってきてからだった。
甘くて、熱くて、チョコとともに理性が溶けるほど、気持ちいい。
私は銀さんに蹂躙されるがままになっていた。
このままどうなってもいいと思うくらいに。
全て銀さんに食べ尽くされて、このまま私の命が消えてしまってもいいと思うくらいに。
唇が離されると、銀さんはチョコのついた自分の唇を手の甲で拭った。
そして、唇に意地悪な笑みが浮かぶ。
かつての私はその笑みを嫌いじゃなかった。
だけど。
銀さんにキスされたということが信じられなくて、ぼうっと惚けていた私にも、だんだん理性が戻ってくる。
それとともに、言い様のない哀しみが胸を貫いていく。
ひどいよ、銀さん。
私のことなんて、ただの依頼人としか思っていないくせに。
こんなことをされたら、銀さんのことを忘れることなんてできなくなってしまうじゃないの。
銀さんの形に空いた心の空洞を埋めるものなど、どこにもないのに。
気がついたら、目から涙がこぼれ落ちていた。