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【呪術】白蛇は胡蝶蘭に恋をするか【禪院直哉】

第6章 漆



これが寂しいという感情なら、
人はどうしてこれを知りながら生きていけるのだろう。

彼女はゆっくりと立ち上がり、障子に手をかけた。

庭は暗く
月明かりだけが淡く石を照らしている

とても静かだ。


直哉の部屋の方を、無意識に見る。
灯りは消えている。

もう、眠っているのだろうか。

それとも――

他の誰かを求めているのだろうか

胸が、きゅ、と縮む。

その感覚に、少し驚く。

初めて知る痛み



外からではなく、内側から滲むような痛み


はそっと布団に戻り静かに目を閉じる


けれど、意識が沈みかけたそのとき。

かすかな足音が、廊下に響いた気がした。

心臓が、強く跳ねる。

耳が熱くなる。

(……直哉…様?)

聞き間違えるはずのない足跡、


息を潜める。

足音は、
襖の前でとまった。


月明かりに映し出されるわずかな
気配。

けれど、戸は開かない。

数秒の沈黙。

やがて、また足音が遠ざかっていく


胸の奥が、ひどく締めつけられていく
喉の奥を何かがつっかえるような、



直哉様、

来たのに。

来たのに――

私の名前を呼んではくれなかった。



その事実が、何よりも重い。

けれど、不思議と涙は出ない。

ただ、胸の穴が少しだけ深くなった。

それでも彼女は、静かに布団の中で丸くなる。

(……明日も、いつも通りに)

いつも通りに、と何度も心の中で繰り返す。

求められなくても。
呼ばれなくても。
彼のそばにいることを、やめる理由にはならないから



だから、いつも通り
きちんと、自分の役目を果たそう
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