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【呪術】白蛇は胡蝶蘭に恋をするか【禪院直哉】

第6章 漆



は恐る恐る湯船の中で直哉に近づくと、頬を染めてそっと口付けをした。
いつもの挑発するようなものではなく、優しく、震える唇。
まるで初めてのキスを捧げるように、慎重で、純粋で。

一度、二度、三度。
重ねるたびに、少しずつ熱を帯びていく。

直哉は静かにそれを受け止めていたが、やがて自分の舌をそっと絡めた。

の体が、ぴくりとこわばる
小さく息を詰まらせ、肩が震えた。

唇を離すと、は涙目で直哉を見上げた。
瞳が潤んで、頰は湯気と羞恥で赤く染まっている。

「……この後、どうしたら、
いいのか……わからない…です」

声は小さく、途切れ途切れ。
まるで壊れ物のように儚い。

直哉は一瞬、目を細めた。
その瞳に、複雑な色が浮かぶ。
苛立ちとも、疼きとも、優しさとも違う、何か熱いものが胸の奥で蠢く。

「……知らんでもええ」

直哉はゆっくりと手を下ろし、彼女の背中に腕を回した。
強く抱き寄せるわけではなく、ただ離さない程度に、湯の中で体を寄せ合う。

「……このまま、ええんや」

短く、淡々と。

彼女は恐る恐る、直哉の胸に額を預けた。
震える指先で、直哉の肩にそっと触れる。
まるで、そこにいることを確かめるように。

「……このままで…いても、いいですか」

掠れた小さな声。

直哉は答えず、ただ彼女の髪を指で軽く梳いた。
濡れた黒髪が指に絡まり、湯の熱を伝えてくる。

「勝手にせぇ」

投げやりに、けれどどこか許すような響き。

は小さく息を吐き、目を閉じた。
体から少しずつ力が抜けていく。
震えはまだ残っているが、さっきほどのこわばりはなくなっていた。

二人はそのまま、湯の中で抱き合ったまま動かない。
唇を重ねることもなく、ただ肌と肌が触れ合う熱だけを共有する。
胸の鼓動が、湯の揺れを通して互いに伝わってくる。
言葉はもうない。

側にいるだけで、十分だった。

そのまま、静かに時間が溶けていく。
何も起こさず、何も求めず、ただそこに在るだけで。
二人はただ、寄り添っていた。
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