第5章 陸
湯気が、まるで二人の間の言葉を隠すように濃く立ち込める。
直哉はゆっくりと息を吐き、の肩に指を滑らせた。
今までとは違う、熱くも優しくもない、ただ確かめるような触れ方。
「…他の男が教えたもんなんかで喜べんわ」
低い声が湯面に落ちる。
の肩が、また小さく止まる。
「教えられたことは、一切するな」
その言葉に、の瞳が
この家に来て、初めて、はっきりと直哉を捉えた。
湯気の向こうで、黒目が静かに揺れている。
驚きとも、戸惑いとも、どこか安堵ともつかない光がそこに宿る。
「……直哉…様」
直哉は答えず、ただもう一度、肩に置いた手をゆっくり動かした。
強引に引き寄せるでもなく、ただそこに在ることを確かめるように。
「お前が考えて、お前がやれ」
はしばらく動かなかった。
伏せていた睫毛が、ゆっくりと上がる。
そして、初めて——本当に初めてのように——自分の意志で手を伸ばした。
細い指が、直哉の胸のあたりに触れる。
躊躇いながら、探るように。
そこには、何の型も決まりもない。
ただ、触れたいというだけの、ぎこちない動き。
直哉の喉が小さく動いた。
「……それでええ」
声がわずかに掠れる。
の手が、もう少し大胆に胸を辿り、鎖骨のくぼみをなぞる。
まるで初めて人の肌に触れる子供のように、慎重で、でもどこか貪欲に。
湯の中で、二人の膝がまた触れ合う。
今度は、どちらも引かない。
が、ほんの少しだけ顔を近づけた。
湯気の向こうで、唇が震えているのが見える。
「……直哉様は…どうして欲しいですか」
声は小さく、壊れそうに儚い。
直哉は答えの代わりに、の顎をそっと指で持ち上げた。
視線が、しっかりと絡み合う。
「違う」
短く、強く。
「お前が、したいようにしろて…言うてるやろ」
その言葉に、の瞳が一瞬揺らいだように見えた