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【呪術】白蛇は胡蝶蘭に恋をするか【禪院直哉】

第5章 陸


湯気が、ゆらりと天井へ昇っていく。
広い浴室に響くのは、水の落ちる音と、静かな呼吸だけだった。

タオル一枚を薄く巻いたが、直哉の背後に膝をつく。
濡れた床に映る白い肌が、湯気の向こうでぼんやりと揺れている。

「失礼いたします」

小さく告げて、手のひらを背中に添え
ゆっくりと、丁寧に。泡を立て、肩から背へと滑らせる。
指先は迷いなく、力加減も正確だ。

甲斐甲斐しく、主に仕えるように。

けれど。

今日は、その感触がやけに煩わしかった。

手のひらが、滑るたび。
指が、筋をなぞるたび。

母親から聞いた話が、意識の奥でちらつく。

「……」

直哉は目を細める。

無言のまま続くマッサージ。
丁寧すぎるほどの気遣い。

それが、余計に胸をざわつかせた。

「……もうえぇ」

低く、遮るように言う。

の手が止まる。

「辞めや」

短く命じる。

彼女はすぐに手を引き、距離を取る。
湯気の中で、しんとした沈黙が落ちた。

直哉は振り返らずに言う。

「……入れ」

命令の声音。

一瞬の間。

「……はい」

は素直に従う。

立ち上がり、そっと湯船へ足を入れると
波紋が広がり、柔らかな水音が響く。

肩まで浸かると、湯が白い肌を包み込む。

直哉はゆっくりと視線を持ち上げた。

湯気の向こうに浮かぶ、の姿。

じっと、見つめる。

その視線に気づいたのか、はわずかに身じろぎし、視線を落とす。
頬が、ほんのり赤い。

湯のせいか、羞恥か。

伏せられた睫毛が震える。

直哉は何も言わない。

ただ、見つめ続ける。
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