第5章 陸
どれだけの実践を積めば、あれほどの“夜伽の旨さ”を身につけられるのか。
……誰に教わった。
その考えが浮かんだ瞬間、胸の奥にじわりと苛立ちが燻る。
誰や。
誰に、触れられた。
喉の奥が、わずかに熱くなる。
「……くだらん」
小さく吐き捨てるように呟き、思考を断ち切る。
知る必要はない。
聞くつもりもない。
布団へ戻ると、が小さく「うん……」と唸った。
直哉の気配を感じ取ったのか、無意識のまま身体を寄せる。
だが、すぐにまた静かな寝息に戻った。
その様子を見下ろしながら、直哉はふと気づく。
――こいつが寝てるとこ、見るん初めてやな。
いつもは、起きている顔しか知らない。
自分を見上げる目も、戸惑う顔も、挑むような表情も。
こんなに無防備な姿を、見たことがなかった。
胸の奥が、わずかにざわつく。
そのどちらともつかない感情を抱えたまま、直哉は再び横になった。
今度は、無意識ではなく、確かに自分の意志で。
そっと腕を伸ばし、の身体を引き寄せる。
彼女は目を覚まさない。
外では、虫の音がまだかすかに続いている。
夜と朝の狭間で、二人だけの体温が、静かに重なっていた。