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【呪術】白蛇は胡蝶蘭に恋をするか【禪院直哉】

第5章 陸



さきほどまで荒く熱を帯びていた空気は、もうすっかり落ち着いた。

障子の向こうから淡い月明かりが差し込み、静まり返った部屋をやわらかく照らしている。
はその薄明かりの中で、隣に眠る直哉の寝顔をじっと見つめながら、小さく息を吐いた。

――やりすぎてしまった。

胸の奥で、かすかな後悔が揺れたが

心の中で別の声が言い訳をする。

求められたから、応えただけ。
あれは、直哉が望んだことだったはずだ、と。

「……こうしてみると、普通の同い年の男の人って感じなのにな……」

誰に聞かせるでもなく、そっと呟く。

汗で少しだけ額に張りついた前髪は乾きかけ、無防備な寝顔を晒している。
はためらいがちに指を伸ばし、その前髪をそっとすく。指先に触れる体温はまだ温かい。

眠っているときの直哉は、あまりに静かで、年齢とは裏腹に幼さすら残る横顔をしていた。
あれほど傲慢に、生きてるだけで周囲に苛立ちをぶつけ、人を人とも思っていない男と同一人物とは思えないほどだ。

ふと視線を落とすと、布団の三分の一ほどが濡れているのが目に入る。
こんなに大きな布団なのに、乾いた場所を探すように自然と身体は寄り添っていた。

「……はぁ」

再び、ため息。

その瞬間だった。

「んんっ……」

直哉が低く喉を鳴らし、寝返りを打つ。
次の瞬間、ぐっと強い力で引き寄せられた。

気づけば、彼の腕がの背に回り、逃げ場のないほど抱きしめられている。
胸板に顔を押しつけられ、さきほどまで見つめていた寝顔は、もう見えなくなった。


――起きてるの?

そう疑ってしまうような抱きしめ方だったが、直哉の呼吸は深く、規則正しい。
無意識のまま、探すように抱き寄せているだけなのだろう。

は観念したように目を閉じる。

耳を澄ませば、遠くで虫の音がかすかに響いている。
秋の夜の気配が、静かに部屋を包み込んでいた。

腕の中の熱は、重く、確かで。

その温度に身を預けながら、はゆっくりと呼吸を合わせていった。
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