第1章 壱
最初の勤めとして任されたのは、夕餉の支度。
は台所で静かに手を動かしながら、盛り付けを見直した。
味だけでは足りない。
見栄え、品数、流れ――禅院家で求められるのは、そういう細部まで行き届いて「当然」として教えられている。
焼き物、煮物、和え物。
小鉢を中心に据え、彩りが重くならないよう配置を整える。
派手すぎず、しかし手抜きにも見えない。
最後に盆を持ち上げ、息をひとつ整えた。
直哉の部屋の前で立ち止まり、静かに声をかける。
「……失礼いたします」
障子を開け、は一歩中へ入り、音を立てないように盆を置いた。
「お待たせいたしました。お食事です」
直哉は、最初、何も言わずに盆へ視線を落とした。
並べられた料理を一つ一つ、値踏みするように眺めていく。
やがて、ちらりとの顔を見上げ、口元を歪めた。
「ほう……」
感心したような声を漏らし、再び盆に視線を戻す。
「なかなか見栄えもええやん
ちゃんと仕事しとるみたいやな」
指先で小鉢の縁を軽くなぞりながら、言葉を続ける。
「小鉢が多いんは、俺の身体のことも考えとる、ちゅうことか?気ぃ利くやんけ」
一拍置いて、薄ら笑い。
「まあ、それくらい出来て当然やけど」
は何も言わず、少し距離を取って頭を下げた。
――その様子を眺めながら、直哉は内心で嗤う。
顔だけの女やと思たけど、これくらい動けるんなら合格点や。
三歩後ろ歩くのも、もう板に付いとる。
好みを細かく言わんでも、ちゃんと形にしてくるんがええ。
こういう「分かっとる」女は、傍に置いといて損はない。
何より気に入っとるんが、俺のために必死に尽くそうとしとる、その殊勝な態度や。
女はこうやって、俺の後ろで甲斐甲斐しく立ち回っとればええ。
自分の立場を弁えとる。
教育の賜物か、それとも俺の威圧感に当てられたか……
どっちでも構わん。
俺は当主になる男や。
これくらいの献身、受けて当然やからな。
直哉は箸を手に取り、ふっと鼻で笑った。
せっかく気合い入れて作ってきたんや。
毒でも入っとらん限り、残さず食うたってもええわ。
そして、ちらりとを見る。
さあ……
次はどんな顔して、俺の機嫌取りに来るんやろな。
楽しむような視線を向けながら、直哉は最初の一口を口に運んだ。