• テキストサイズ

【呪術】白蛇は胡蝶蘭に恋をするか【禪院直哉】

第1章 壱


「別にええよ
ちゃんと分かっとるみたいやから、助かるわ」
「明日から、言われとるんやったか?」

「はい」
は静かに答える。
「ですが、開く荷物もありませんし……今日からでも」

その言葉に、直哉はわずかに首を傾げた。

「へぇ、随分と覚悟決まっとるやん」

口元の薄ら笑いが、ほんの少しだけ濃くなる。

「まぁ、その方が助かるわ」

そのとき、廊下の脇から足音がした。
現れたのは、年配の女中。
彼女は無言で二人の前に膳を置き、湯気の立つ茶を差し出す。

直哉の前に茶を置き終えると、女は一瞬だけに目を向け、すぐに直哉へと視線を戻した。

「……そりゃあ」
ぼそりと、聞こえるか聞こえないかの声で言う。
「年寄りの女より、歳の近い方がええわなぁ」

値踏みするような視線が、の上をなぞる。

「若い、とは言えんかもしれへんけど」

女は何事もなかったかのように去っていった。
直哉はその様子を面白がるように眺め、茶に手を伸ばす。

「……ま、そういうことや」
「これからは、ちゃんと俺の後ろついて来たらええ」

湯気の向こうで、直哉の笑みは相変わらず薄く、はっきりしない。

は小さく頷く。
自分が“選ばれた理由”を、改めて突きつけられた気がして――
胸の奥が、静かに冷えていくのを感じながら。
/ 109ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp