第4章 肆
「なぁ……ちゃん」
低く、苛立ちを噛み殺した声だった。
呼ばれたが振り向くより早く、直哉は言葉を重ねる。
「全部分かっとるんやろ。俺のこと」
彼女の表情がわずかに揺れる。
だが、それを確かめる前に、直哉は吐き捨てた。
「俺が何が欲しいか
ほんまは全部わかっとるくせに」
一歩、距離を詰める。
「知らん顔して、完璧な世話役気取って。
――楽しいんどるやろ」
は、息を呑んだ。
「俺が何も言わんのをええことに」
視線が刺すように落ちる。
「そのくせ、俺が苛つくのは分かっとる。
分かっとるから、そのままなんや」
言い切る声音には、根拠などなかった。
ただ、そうでなければ困るだけだ。
「本当は分かっとるやろ」
返事を待つようでいて、待っていない。
直哉は、吐息交じりに続ける。
「分かっとるのに、
それをしてやらんで、
俺が勝手に焦れて、勝手に腹立てるのを――」
唇が歪む。
「……楽しんどる」