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【呪術】白蛇は胡蝶蘭に恋をするか【禪院直哉】

第4章 肆



「……誰に、愛想振りまいとんねん」

声は低く、抑えられている。
怒鳴ってはいない。

それが、余計に怖かった。

は抵抗しない。
ただ、視線を落としたまま、息を整えようとする。
喉の圧が、ほんの少し強まる。

「俺の前で、他の男を見るな」

言葉は短い。
理由も、説明もない。

の指先が、かすかに震えた。

「……申し訳、ございません」

掠れた声。

それを聞いた直哉は、
一瞬だけ表情を歪め――
次の瞬間、乱暴に手を離す。

咳き込んだ拍子に、の身体が崩れた。

床に膝をつき、喉を押さえたまま、浅く息を吸い
乾いた咳が二度、三度と続き、廊下に残った。

直哉は、その様子を見下ろしていた。

手を伸ばすこともなく、
声をかけることもなく、
ただ、落ちた彼女を視界に入れたまま立っている。

――おかしい。

甚壱など、今まで気にもとめたことがなかった。
年嵩で、家の古株なだけの格下。

それなのに。

さきほどの光景が、脳裏から離れない。
廊下に立つ、あの男の大きな体躯。
無駄のない立ち姿。
落ち着いた声。

(……なんでや)

一瞬でも、
の目に――
あれが「男らしく」映ったのではないか。

そう思った途端、
胸の奥が、ひどくざわついた。

(あり得へんやろ)

そもそも顔があかん。
比べる対象ですらない。
それなのに、
“そう見えたかもしれない”という想像だけが、
直哉の神経を逆撫でする。

自分の感情が、理解できない。

嫉妬?
違う。
そんなものを抱く理由はない。

不安?
もっと違う。

ただ、
自分以外の「男」が、
彼女の視界に入っている―
それが許せなかった。

床に伏したが、
ようやく咳を収め、息を整え始める。

その姿は、いつもと同じだ。
怯えも、訴えもなく、
ただ、役目の中にいる。

それが、また苛立つ。
理由は分からない。
分からないまま、
感情だけが先に暴れている。

「……立て」

低く言う。

はすぐに身体を起こし、
深く頭を下げた。

「申し訳ございません」

その声を聞いて、
直哉は視線を逸らした。
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