第4章 肆
けれど――
それが、直哉にとってはひどく苛立たしかった。
望んだのは、自分だ。
距離を置くと決めたのも、引き離したのも、拒んだのも、自分。
その判断が間違っていたとは、微塵も思っていない。
は、何も変えない。
近づきすぎず、遠ざかりすぎず。
感情を匂わせることもなく、
拒絶された事実に触れることすらしない。
まるで最初から、身体を重ねたことなどなかったかのように。
――それが、気に食わない。
(……なんや、それ)
視線を向けても、彼女は気づかないふりをする。
言葉を投げても、必要最低限で返してくる。
そこに、迷いも、期待も、縋りもない。
以前のように、俺の劣情を煽ることもない。
それが「正しい女」の姿だと、頭では分かっている。
だが、感情は納得しない。
自分が上にいる構図は変わっていない。
彼女は今も、自分の判断に逆らってはいない。
それなのに――
主導権を握っている感覚だけが、どこか薄れている。
(俺が、間違ってるわけやない)
彼女が適応しているだけだ。
そう分かっている。
それでも、その振る舞いがあまりにも従順で、完成されすぎていて、
直哉の神経を逆撫でする。
遠ざけたのは、自分だ。
だが、その距離は思っていたよりも静かで、
何も起こらなさすぎる。
それが、腹立たしい。
直哉は、黙って彼女の背を見つめた。
何も言わず、何も求めず、
それでも当然のようにそこに在る――
完璧な「世話役」の姿を。
それが
なぜか心をざらつかせていた。