第4章 肆
その日から直哉が彼女を求めることは、なくなった。
夜が来ても、襖は閉じられたまま。
呼ばれることはなく、彼が来ることもない。
その代わりに残ったのは、世話人としての役割だけだった。
は、淡々と勤めを果たし続けた。
朝は決まった刻限に起き、身支度を整え、食事を用意する。
器の配置、味の濃淡、季節の取り入れ方―どれ一つとして乱れはない。
直哉が席に着けば一歩下がり、必要以上に視線を合わせない。
だが、求められれば即座に動ける距離は、常に保っている。
表面的な世話役としての仕事。
本来、彼女に与えられていたはずの役目。
それだけが、静かに、確実に続いていった。
彼女の仕事は、常に完璧だった。
粗相はない。遅れもない。
感情の滲みも、揺れも、表に出ることはない。
夜伽がなくなったことで、彼女はさらに慎重になった。
言葉の選び方、声の高さ、立つ位置。
直哉の自尊心を傷つける要素を、徹底的に排除する。
彼が優位であること。
彼が正しく、彼が選ぶ側であること。
それを揺るがせないために、彼女は自分を薄くする。
必要以上に近づかない。
だが、遠ざかりすぎない。
存在は消さず、主張はしない。
それが、最適解だと知っていた。
直哉が何も言わずに過ごす日々の中で、
は変わらなかった。
変わらないことで、
彼の世界に波紋を立てないことが、
彼女に許された、唯一の正解だったから。
そして彼女は今日も、
何事もなかったかのように、
完璧な勤めを、静かに果たす。