第4章 肆
は、生まれた瞬間から「彼のため」に用意された存在だった。
禪院家に次期当主となるであろう男が生まれれば、その年齢に最も近い女児が捧げられる。
情でも縁でもなく、謂わば供物。
嫁や妾としてではなく、ただ命を尽くす侍女として。
幼い頃から、数人の女児が同時に集められた。
皆、同じ年頃で、同じように着飾られ、同じように教育された。
立ち居振る舞い、言葉遣い、食事の作法。
感情の抑え方、視線の落としどころ、呼吸の仕方に至るまで。
捧げるための教育だった。
比較され、測られ、削られていく中で、最後に残ったのが。
優れていたからではない。
最も「適していた」からだ。
直哉の性格が形作られていくにつれ、への教育も変質していった。
彼が男尊女卑を当然とするなら、それに違和感を抱かない女でなければならない。
彼が感情的になるなら、感情を持たぬ女でなければならない。
そうして、叩き込まれた。
――女は男の下に在るもの。
――意見は不要。
――感情は不要。
――価値は、男にどれだけ尽くせるかだけ。
直哉のために生きる以外の価値は、一切ない。
その言葉は、罰でも命令でもなく、事実として繰り返し教えられた。
疑う余地など、最初から与えられていない。
殴られれば、理由は自分にある。
拒まれれば、至らなかった自分が悪い。
理不尽に怒りを向けられても、それを受け止めることこそが役割だ。
そうして積み重ねられた教育が、
今のという人格を形作っている。
彼女は、自分を犠牲にしているという自覚すらない。
それが当然で、それ以外の生き方を知らないからだ。
直哉が望む姿になること。
直哉が不快に思わない存在でいること。
直哉の後ろに、違和感なく在ること。
それが、の生きる意義だった。
そしてそれは、
彼女自身の望みではなく――
選ぶという行為すら許されなかった、
唯一の「正解」だった。