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【呪術】白蛇は胡蝶蘭に恋をするか【禪院直哉】

第4章 肆


準備を整えた彼女が、まだ動く様子のない直哉に茶を立てる。
直哉は差し出された抹茶の茶碗を手に取ったまま、動かずにじっとその緑色の水面を見つめた。

温かな湯気が顔をかすめるが、彼の瞳には冷ややかな自己嫌悪の色が混じっていた。
昨夜の、あの無様な姿。
触れられもせず、ただの口付けだけで果ててしまった自分。
それは彼にとって、どんな敗北よりも屈辱的で、到底許せるものではなかった。
強者として生きてきた彼にとって、一人の女に心身ともに屈服させられている現状は、耐え難い「汚れ」のように感じられた。

「……なぁ、。
自分、俺をどうしたいん? 禪院家の次期当主になるはずの俺を、ただの腰抜けの腑抜けに仕立て上げて、それで満足なんか?」

彼は茶碗を畳の上にカツンと音を立てて投げると、濃い緑が血のように畳に染み込む。
細い目をさらに細め、いつもの薄ら笑いを浮かべながらを睨みつけた。

しかし、その笑みは余裕からくるものではなく、自分自身の脆さを隠すための、剥き出しの牙のようなものだった。
彼女の献身的な態度や、自分を全肯定する言葉さえも、今の彼には自分を蝕み、堕落させる毒のように感じられてならない。

「べっぴんさんの顔して、えげつないことしよるわ。俺が一番嫌いなんは、弱いくせに強者のフリするやつや。
…今の俺は、その『ドブカス』に成り下がっとる気がして、マジで虫酸が走るんやわ。
女ごときに負け続けるなんて、俺のプライドが許さへん」

直哉は勢いよく立ち上がり、の顎を強引に指で掬い上げた。その指先は昨夜の余韻か、あるいは抑えきれない苛立ちからか微かに震えているが、力任せに彼女の視線を自分に固定させる。
自分を支配し、狂わせるこの女をいっそ壊してしまいたいという衝動と、彼女のいない世界ではもう息もできないという絶望的な依存心が、彼の中で激しく火花を散らしている。

「勘違いすなよ。
俺は、俺以外の奴ら全員を見下して生きていく男や。
お前みたいな玩具に、いつまでも負けたままおるわけないやろ。」

直哉は彼女のことを捨てるように顎を離すと。荒々しく部屋から出ていった。

部屋に一人残されたは
彼の消えた廊下をただ静かに見つめていた。
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