第4章 肆
直哉には、分からなかった。
が、どうしてああも平然と自分を扱えるのか。
殴られても泣き喚かず、責めることもなく、理由を問うことすらせず。
かといってどれほど求めても、落ちては来ない。
好きでも嫌いでもない、そもそも何の感情も無さそうなその態度が、理解できなかった。
今まで出会った女は、違った。
真希のように毛嫌いしてきているような者を除けば
女は大抵、声をかければ喜び、
視線を向ければ浮き立ち、
少し優しくすれば、すぐに自分に溺れた。
禪院直哉という名前も、整い恵まれた容姿にも
女たちは価値を見出してきた。
だから、女に困ったことはない。
困るはずがない。
――それなのに。
(……意味分からんわ)
畳に胡座をかいたまま、直哉は天井を睨んだ。
別に、を好きなわけじゃない。
その自覚は、はっきりしている。
そもそも、自分が誰か一人を特別に思う、という発想自体がない。
女は気晴らしで、所有物で、入れ替えの利く存在だ。
情を向ける必要など、どこにもない。
(俺が、誰か固定で好きになる?
……あほらし)
鼻で笑おうとしたのに、うまくいかなかった。
胸の奥に、引っかかるものがある。
苛立ちとも、違和感ともつかない、曖昧な感情。
自分を雑に扱われた、という感覚。
見下されたわけでも、拒絶されたわけでもないのに、
なぜか「思い通りにならない」ことだけが、腹に残っている。
(なんでや)
言葉にすれば、ひどく幼稚だと分かる。
だが、どうしても腑に落ちない。
今までの女たちは、分かりやすかった。
好意を示せば、応じる。
悪意を示せば、逆らう。
気まぐれでも、機嫌でも、直哉が上にいる構図は揺るがなかった。
なのに、は
自分の機嫌に振り回されているようで、
実は一線を越えて踏み込んでこない。
こちらがどれだけ感情的になろうと、感情を見せはしない。
それが、直哉には――
どうしようもなく、気に障った。
(……腹立つわ)
目の前で、まるで自分は関係ないとでもいうように
身支度をするを睨みながら
直哉は一人、そう吐き捨てた。
理由の分からない違和感を抱えたまま、
その正体に名前を付けることもできずに苛立ちが募る。