第3章 参
直哉は布団に横たわったまま、目を閉じても眠りは訪れなかった。
身体の芯に残る熱が、じりじりと燻っている。不完全な射精の後味が、苛立ちを増幅させるだけだ。
拳を握りしめ、畳を叩く。音が虚しく響く。
やがて、襖の向こうから控えめな足音が近づいてきた。
年かさの侍女――禪院家に長く仕える、四十を過ぎた女だ。
彼女は静かに襖を開け、膳を運び入れてきた。
「……お食事をお持ちしました、直哉様」
声は低く、穏やか。
直哉は顔を上げず、ただ横目で膳を見た。
白飯、味噌汁、焼き魚、漬物。
そして、小鉢に盛られた煮物。
その色合い、煮汁の透明感、野菜の切り方――一目でわかった。
の作ったものだ。
直哉は舌打ちした。
こうして間接的に存在を突きつけてくることが腹立たしい。
「……下がれ」
短く言い放つ。
侍女は深く頭を下げ、音もなく退出した。
襖が閉まると、再び静けさが戻る。
直哉は膳に手を伸ばした。
箸で煮物を一口。
柔らかく味の染みた大根。
甘辛い出汁が舌に広がり、昨夜の記憶を呼び起こす。
彼女の指先が、俺の髪を撫でた感触。
膝の温もり。
「…食えたもんやないな」
箸を置く。
食欲などない。
ただ、苛立ちが募るだけだ。
不完全燃焼のせいで、身体が言うことを聞かない。
いくら自分で慰めても、頂点に届かない苛立ちが、胸を締め付ける。
布団に倒れ込み、天井を睨む。
目を瞑っても眠れはしなかった。