第3章 参
直哉は、身体の芯に残る疲労感と、激しい興奮の残滓にまどろみながら、ゆっくりと瞼を開けた。
視界がぼやける中、が、座っているのが目に入る。
「目が覚めましたか?」
彼女の静かな声が耳に届き、一瞬、昨夜の光景がフラッシュバックして、思わず身体が強張る。
外を見ると、まだ日は登っておらず、朝焼け前の静かさにあたりは包まれている。
か細い蝋燭の光を頼りに、裁縫をしていた彼女の手は止まり、直哉のために入れたばかりの茶を差し出した。
直哉は湯呑みを唇に当てたまま、の顔をじっと見据えた。
湯気の向こうで、彼女の瞳は穏やかで、昨夜の激しさなど微塵も感じさせない。
「……俺のを散々使っておいて、今は『侍女』さんごっこか? ……ええ度胸しとるやん」
掠れた声で吐き捨てる。
は小さく首を振った。黒髪がさらりと頬を滑る。
「そんな……こと、ありません」
静かな声。
直哉は湯呑みを乱暴に置くと、身体を起こそうとして――すぐに力なく畳に手をついた。
腰の奥に残る疼きが、昨夜の記憶を呼び起こす。
支えようとしたに「触んな」と
口ではそう言いながら、身体は拒絶をしていない。
はそっと手を伸ばし、直哉の乱れた前髪を掻き上げる。指先が頬を滑る。
直哉の肩はびくりと跳ねたが、逃げはしない。
「……本当に、お疲れのようですね」
彼女はそれだけ言って、言葉を止めた。
ただ静かに、直哉の髪をゆっくり撫で続ける。
「誰のせいやと」
は目を伏せ、
「…私のせいですね」
小さく、素直に頷くだけ。
直哉の頬がカッと熱くなった。
自分で言っておきながら、彼女の控えめな返しに途端に恥ずかしさが込み上げる。
「……お前、ほんまにいい加減にしぃよ」
自嘲気味に呟く。
は答えず、ただ直哉の額にそっと指を当てた。
熱を確かめるような、優しい仕草。
「――っ」
直哉の耳が赤くなる。
膝枕の記憶、髪を撫でられた感触、自分が果てる寸前まで彼女に甘えた声を出していたことまで、蘇る。
「近づくなや」
弱々しく言い返す。
は小さく微笑んだ。
言葉は出さない。ただ、そっと直哉から離れて頭を下げる。
「今日は……休んでください」
囁くように、それだけ。