第1章 壱
「ごめんください」
広く冷たい廊下にか細い声が響く。
いつの間にか目の前に現れた直哉は廊下の柱にもたれるように立ち、突然の来訪をしたを見て、ゆっくりと口元を歪めた。
どこか楽しむような、探るような視線。
「おお……ちゃんやん」
薄く笑いながら、視線だけを彼女に向ける。
「えらい久しぶりやねぇ。
なんでまた、こんなとこに居んの?」
突然投げかけられた言葉に、は一瞬だけ言葉を詰まらせた。
けれど、すぐに背筋を伸ばし、決められた通りに口を開く。
「…お久しぶりです、直哉様
その…当主様の命で…こちらに」
その答えを聞き、直哉は小さく眉を上げた。
そして、薄ら笑いをわずかに深めながら、ゆっくりと頷く。
「へぇ。親父に、か」
「物好きやなぁ、あの人も」
そう言いながら、興味深そうにを見つめる。
「で、なんの御用なん?」
は視線を落とし、指先をそっと握りしめた。
胸の奥がざわつくのを押し込みながら、静かに言葉を紡ぐ。
「……今日から、こちらで働くようにと」
「父から、そう言われました」
一拍置いて、続ける。
「直哉様の……身の世話をすることになるそうです」
その瞬間、空気がわずかに変わった。
直哉は一瞬だけ目を瞬かせ、それから喉の奥で、低く笑った。