第2章 弍
朝の柔らかな光が障子越しに差し込み、直哉は重い目蓋をゆっくりと持ち上げた。全身を包む気だるさと、腰の奥に残る鈍い痺れが、昨夜の狂乱が夢ではなかったことを生々しく伝えてくる。隣に手を伸ばすが、そこにあるのは冷えた畳と整えられたシーツだけだった。直哉は低く呻き、乱れた金髪を無造作にかき上げながら身を起こした。
「……はぁ、クソ……。俺としたことが、いつの間に寝てもうたんや。
果てて眠りこけるとか、情けなすぎて笑えへんわ……。」
部屋を見渡せば、床の汚れは跡形もなく消え、脱ぎ散らかしたはずの書生服も丁寧に畳まれている。
自分が泥のように眠っている間に、彼女が淡々と「お世話係」としての仕事を全うしたのだと察し、直哉は忌々しげに舌打ちをした。清潔な寝間着に袖を通されたことすら気づかなかった己の無防備さと、彼女の完璧な立ち振る舞いに、言いようのない敗北感が胸を突く。
「ほんまに可愛げないなぁ。
主を置いてけぼりにして、さっさと自分の部屋戻るんか。……普通、余韻に浸って隣で丸くなっとるもんやろ。……非道いなぁ、人の心とかないんやろか?」
直哉は縁側に視線をやり、昨夜彼女が口にした「受胎できない」という言葉を反芻した。彼女を道具として扱うと言い放ったものの、その言葉の裏にある「欠陥」という響きが、今の彼には妙に引っかかっていた。
「……受胎できへん、か。まぁ、俺にとっては好都合やけどな。……余計なもん抱えんで済むし、一生、俺の欲望を受け止めるためだけの器でいればええ。……欠陥品なら欠陥品なりに、俺が飽きるまでは愛でたればええやろ。」
直哉は足早に部屋を出て、の姿を探して歩く。廊下を進む足取りはまだ少しおぼつかないが、その瞳には獲物を追い詰める猟犬のような鋭い光が宿っていた。
彼女が今、どんな顔をしているのか。昨夜の毒婦は本物なのか。
それを確かめずにはいられないほど、彼はすでに彼女という深い沼に足を取られていた。