第1章 壱
浴室に響く水音が激しくなり、直哉のつま先がぎゅうっと縮こまった。
目の裏で光がチカチカと瞬く。
理性が、溶けていく。
の舌が耳朶を這い、濡れた熱を残しながら、小さく囁いた。
「直哉様……可愛い……♡」
その瞬間。
「……っ、あ、あああっ……! あかん…、それっ…」
直哉の身体が激しく震え、制御を失った快感の波が一気に押し寄せる。
の指に包まれた先端から、熱く白濁したものが勢いよく迸った。
何度も、何度も。
肩に顔を埋め、荒い呼吸を繰り返しながら、射精の余韻に身を委ねる。
「……は……ぁ……。お前……ほんま、えげつないわ……。『可愛い』って……そんなん、言われたことあらへん…っ」
声は掠れ、いつもの傲慢な響きはどこにもない。
悔しさが、胸の奥でぐちゃぐちゃに渦巻いている。
こんなふうに、完全に主導権を握られたことなどなかった。
いつもは自分が相手を喘がせ、泣かせ、壊す側だったのに。
なのに、今は違う。
この敗北が、こんなにも鮮烈で、こんなにも新鮮だ。
身体の奥底から湧き上がる、未知の感覚。
支配される側の、甘く危険な快楽。
一度味わってしまったら、もう後戻りできないような、そんな興味が、静かに芽生え始めていた。
直哉はの背中に手を回し、強く抱き寄せた。
指先に、まだ震えが残っている。
「……もう、お前…覚悟しときぃよ」
耳元で囁く声には、悔しさと執着が混じり合っていた。
けれどその奥に、ほんのわずか、初めての敗北に酔いしれるような、好奇心に似た光が宿っている。
湯気が二人の身体を包み込み、
浴室には、
荒い息遣いと、
静かに滴る水音だけが、ゆっくりと響き続けた。