第1章 壊れぬ妻と飽きない夫
「また適当言うて……。」
仁美 はその言葉をあっさり受け流す。
まったく信じていないという顔で。
直哉はそんな彼女を見下ろしながら、鼻で笑った。
「信じへんのか。アホやなぁ。」
「直哉こそ。悟くんにそんな気ないよ。」
「……ほぉん?」
直哉の声色が、少しだけ低くなる。
悟の名前を出すと、直哉の態度が変わるのはいつものこと。
直哉はふいに、仁美 の頬を指でなぞった。
さっき悟くんの名を出したときとは違う、ゆるく蕩けた笑みを浮かべながら。
「……なぁ、仁美。」
「ん?」
「悟くんの話したん、俺を嫉妬させたいからちゃうん?」
唇の端を上げて、わざと耳元で囁く。
「そういうとこ、かわええなぁ。」
仁美 は目を細め、意味ありげに笑って返した。
「どうかな?」
その表情が、火をつける。
直哉の指先が顎をすくい上げ、次の瞬間、唇が重なった。
最初は軽く触れるだけ。
しかしすぐに舌が絡み、呼吸を奪うようなキスに変わる。