第1章 壊れぬ妻と飽きない夫
直哉がふいに身体を近づけてくる。
仁美 の髪を指で払い、そのまま唇を寄せようとした――その瞬間。
「……あ、そういえば。」
仁美 が思い出したように声を出した。
「今日の会合、悟くんおったで」
直哉の動きが、そこでぴたりと止まる。
「……悟くん?どやった?」
仁美 は少し笑いながら肩をすくめた。
「普通。たわいもない話しただけ。」
「たわいもないで済むタイプちゃうやろ、悟くん。」
直哉が眉を寄せる。
軽口のようで、どこか本気で探る声音。
仁美 は苦笑しながら、直哉の胸を軽く押して距離を戻した。
「いつの頃の話してんのよ。悟くん、今そんなことせえへん。」
「はぁ? 悟くんはな、お前のこと一生好きやと思うで。」
直哉はベッドに片肘をついたまま、半分笑い、半分本気みたいな目で言った。
「当主になっても結婚せぇへんの、なんでや思う?」
「知らんし。関係ない。」
「お前や。悟くん、今でも仁美のこと好きやで。絶対。」