第4章 残る想いと結ぶ誓い
直哉は着物を脱ぎ終えると、露天風呂の方へゆっくり歩いた。
「勝手にしたらええけど……その匂い、取った方がええと思うで。」
仁美は目を瞬いた。
「は? 何の匂いやの?」
「……分からんのが問題や。」
直哉は振り返らずに言った。
そして、静かに湯けむりの向こうへ消えていった。
「……………。」
仁美はしばらく無言で露天風呂に入る直哉の背中を見ていた。
そしてモジッと動くと、むくれた顔のまま立ち上がる。
露天風呂の湯気が、ひんやりした夜気と混じり合っていた。
仁美はためらいながらも、結局ゆっくりと湯殿へ入ってくる。
戸口を開けた瞬間、直哉が湯に浸かりながらニヤッと半分眠たそうな笑みを浮かべた。
「……来るんやな。ほら見ぃ、入るやんけ。」
揶揄うような声は、むしろ、待っていたような声音だった。
渋々近づこうとした仁美の腕を、直哉がぐいっと軽く引く。
「落ちるで。ほら、気ぃつけぇ。」
そのまま、仁美の体を湯へ沈めさせるように導き、自分の前へ座らせる。