第4章 残る想いと結ぶ誓い
背中に、直哉の胸板のかたい感触が触れた。
仁美は体を直哉に預けて、彼の温泉の熱と彼の体温を同時に感じる。
湯気の向こう、空は夜から朝へ移ろい始めていた。
群青が、薄桃色に染まりつつある。
その景色を眺めながら、直哉がぽつりと呟く。
「……俺別に、性欲強いわけちゃうねん。」
ポツリと言った直哉の言葉に仁美が返事をする間もなく、彼は続けて言った。
「俺の目的は禪院家の“種馬”みたいなもんや。役割決まっとんねん。跡継ぎは誰が産んでもええ。……お前でも、他の女でも、“相伝”の術式を持っとる子が出来たら、それで俺の当主の目は上がる。ただ、それだけや。」
仁美はゆっくり振り返ろうとしたが、直哉が軽く肩に手を置いて止める。
彼の声は淡々としていて、表情を見ないとその心情は仁美には分からなかった。
仁美の背中に触れている直哉の胸板の鼓動が、かすかに伝わってくる。
「……せやからな、仁美。お前の家との繋がりが強うなって、禪院家の利益安定して跡継ぎさえ産まれたら、ほんならその後は悟くんとこ戻ってもええ。」