第4章 残る想いと結ぶ誓い
「……なんで、今でも仁美のそばにおんねん。」
悟は振り返らないで腰だけわずかにひねり、横顔で言う。
「じゃあ僕からもひとつ聞くよ。」
ゆっくりした、落ち着いた声。
「どうして直哉くんは、僕に殴りかからないの?」
悟の言葉に直哉は鼻で笑った。
「そら、軽ぅ〜くやり返されるん、目に見えとるからやろ。」
悟は、ようやく振り返った。
白い髪が暗がりに揺れ、その瞳はどこまでも静かやのに、底に強い光を宿している。
「正直だな。だから殴ってこないんだ。」
「せや。無駄な勝負はせぇへん。勝てる喧嘩しかしぃひん主義や。」
直哉は肩をすくめて言った。
「僕が仁美の側に居る理由も同じだよ。分かりきったことで自分の位置を変えないだけだ。」
ーー仁美の側にいるべきは自分だと。
徐に悟は直哉に言った。
悟はそのまま、夜の廊下へ姿を消した。
直哉は無言でその背中を見送り、薄暗い部屋にひとり残される。
眠る仁美を見下ろしながら、静かに笑うでもなく呟いた。
「……ほんま、ややこしい縁ばっかりや。」