第4章 残る想いと結ぶ誓い
「……やっぱり、仁美は着物が一番似合うだろ?」
悟は穏やかに言う。
そして、ゆっくりと直哉を見た。
「あの着付け、僕が教えたんだよ。……子どもの頃、何回も練習した。」
その言葉に直哉の表情がわずかに揺れた。
生地の落ち方、襟元の角度、隙の出方――。
すべてが“美しく見えるように”整えられていた。
直哉が惹かれたあの隙。
あれは、自分の嗜好でも、仁美の美でもなかった。
――五条悟が教え込んだ“美の形”。
それに気付かされて、直哉は乾いた笑いを漏らす。
「……は。おもろいな。」
悟は直哉の呟きさえ気にせずに、眠る仁美の寝顔をじっと見つめていた。
その指先が、仁美の手に触れたまま静かに止まっていた。
やがて悟は、深呼吸をひとつしてから、ゆっくりとその手を離した。
布団の上に戻された仁美の手は、温もりを失ったばかりのように微かに震えて見えた。
悟は立ち上がり、静かに襖へ歩く。
その背に向かって、直哉が声を落とした。