第4章 残る想いと結ぶ誓い
直哉は袴を結びながら、白椿を横目で見て、口角だけを上げる。
「気にかけとるんやのうて……気に食わんだけや。」
その言葉の裏にある“本音”を、白椿は楽しむように微笑む。
「ほな、行きはったらええ。あの子、まだ起きて待ってはるえ。」
直哉は襖へ向かいかけて、ふと振り返りもせず、少しだけ低い声で言った。
「……他の女んとこ行け言うて背中押す女……お前が初めてや。」
そう言った直哉の言葉に白椿の笑みが深まる。
「直哉はんに言うてほしゅうて、言うたんどす。」
直哉は鼻で笑い口角だけ上げて襖に手をかける。
「……ほんま、ええ女や。」
直哉は白椿が望んでいる言葉を呟いて、静かな夜の廊下へと消えていった。
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禪院家の宿泊用に与えられた広い客室。
その襖の前で直哉は足を止めた。
けれど、襖の向こうから漏れる気配は仁美ひとり分ではなかった。
――一人、余計や。
直哉は舌打ちもせず、ただ淡く鼻で笑って襖に手をかける。
襖を静かに開いた瞬間、部屋の空気がゆっくりと流れ込む。