第3章 愛と義務
それはまるで、幼い頃、仁美の体調が悪いときにそっと寄り添ってくれた悟の声のままだった。
仁美と悟はどちらかが言うでも無く動き出した。
まるで昔からそうしていた様に。
悟は濡れた着物の重さを見て、布を傷めないように袖から順にほどき、
濡れた生地をそっと受け取った。
体に触れない距離で、温かい手ぬぐいを湯からくぐらせてから肩、腕、背中へと丁寧に押し当てていく。
昔から具合が悪くなる仁美を介抱していたのは悟だ。
慣れた様に仁美の体から水気を取る。
「仁美、立てる?」
その声に呼吸を合わせ、仁美がゆっくり立ち上がると、悟は着物を肩へふわりと落とすようにかけた。
襟の角度、袖の流れ、裾の重み。
悟は布の見せ方だけを整え、身体には触れない位置から手のひらで空気を払うように形を作る。
帯を結ぶ時も、布の張り具合を確かめながら音を立てずに締めていく。
最後に襟元をほんのわずか整え、悟は正面に回って短く言った。
「……うん。仁美はやっぱり綺麗だ。」