第1章 壊れぬ妻と飽きない夫
「……勘違いして勝手に夢見る女、直哉が一番嫌うやつや。」
女は震えながら、タオルを握りしめた。
仁美 は立ち上がり、散らかった服を足で押しやりながら言う。
「帰り。次はないで。」
仁美 は潰したゴムを踏みつけて、襖の外に控えていた女中に声をかけた。
「……掃除お願い。直哉の部屋。」
女中は一瞬、気まずそうに目を伏せた。
その視線が“憐れみ”に傾いているのは、もう慣れている。
「畏まりました、奥様。」
気遣うように深く頭を下げた女中の背を見送り、仁美 は自室へ静かに戻った。
扉を閉めた瞬間、胸の奥底から抜けていくような、大きな息を吐く。
「……ふぅ……。」
浴室に入り、熱いシャワーを浴びる。
肌に残った甘い匂いを洗い流しながら、まるで誰かの残した“影”まで落とすように。
髪を軽く拭き、ベッドに仰向けになる。
少し疲れが体に滲んだ。
しかし、その静けさを破るように、部屋の扉がノックもなく開いた。