第1章 壊れぬ妻と飽きない夫
女の言葉が止まる。
彼女は潰れた袋を、指先でゆっくり掲げて見せた。
「それで、“跡取り”産める思てた?」
「……え?」
「うちが子供産めてへんのは事実やけど、あんたがそれ狙いで寄ってきたんも分かるわ。」
仁美 は淡々と近づき、ベッドの縁に腰を落とした。
笑っていない。怒ってもいない。
感情が見えない真っ直ぐな視線。
「でもな。禪院直哉は、ああ見えて用心深い。病気怖いからって、絶対生でする相手選ぶねん。少なくとも、“あてがわれた女”には、絶対せぇへん。」
「ちょ……それ、どういう――。」
「禪院家が跡取り欲してるのに、素性ぼんやりの女、あてがうと思う?」
仁美 は一つひとつ、かみ砕くように言葉を落とす。
「つまりあんたは、“跡取りカード”にもならん。ただの暇つぶし用。」
女の顔から血の気が引いていく。
「直哉くんが……そんな扱いするわけ――。」
「するよ。あの人、仕事やったら平気で人切るし、女も、都合悪なったらあっさり切る。」
仁美 は潰れた袋を女の足元に落とした。