第3章 愛と義務
「禪院の嫁はな、愛されるためにおるんやない。家、守るためにおるんや。」
直哉の声が静かに落ちる。
「……分かっとるな、仁美。」
その言葉は残酷だった。
でも直哉にとっては、揺るがない“現実”だけを伝えている。
仁美は顎に触れていた直哉の手を首を一振りして払った。
そして彼を見たくないと言わんばりに顔を俯かせる。
灯籠の柔らかい光の中で、仁美の着物の襟元がわずかに揺れ、白い襦袢の端が喉の下あたりで呼吸に合わせて上下している。
(……襟、甘いな。)
きっちり締められた着物でも、歩くたびにふわりと空気が入る。
その一瞬の緩みに、素肌の白さが覗く。
その“隙”に、直哉は自然と目が吸い寄せられた。
(着物は隙が勝負や。こういうとこが一番、色っぽいねん。)
帯の位置が高いせいで、腰の動きに合わせて着物の布がわずかに波を打つ。
その下に下着がないことを、直哉は知っていた。
今日一日 仁美が気丈に歩こうとするほど余計に、隙は綺麗に浮かび上がっていた。