第3章 愛と義務
「第一な……禪院家の男が外の女抱くんなんか、昔から普通の話や。」
「……そんな、当たり前みたいに……。」
「当たり前や。」
直哉の声が一段低くなる。
「そもそも俺らは“跡取り”作らなあかん。家、継ぐ者おらんかったら……禪院は終わりや。」
そこで初めて、直哉の表情にほんの少しだけ、陰が刺した。
「……俺は、“当主”にならなあかん人間やからな。」
その言葉は、彼自身の重さと焦りが滲んでいた。
「跡取り作るためには、使えるもん全部、使わなあかん。」
その言い方には色気も嘲りもなく、ただ“義務”だけがあった。
覚悟していた事実でも、仁美は直哉を見返し、声を出してしまう。
「……そんなん言われても……うちは……。」
「納得できへんのやろ?」
そんな仁美の訴えさえ、気にすることなく直哉はまっすぐ見てきた。
冷静で、冷たくて、でも揺らがない。
「せやけど跡取りや。俺の役目や。……そして、“あんたの役目”でもある。」
そう言った直哉の視線に仁美の胸がぎゅっと締まる。