第3章 愛と義務
(襟、落ちかけとるな……無自覚なんがまた、あかんわ。)
白いうなじにかかる髪。
襦袢の赤い縁取りが喉元の浅い凹みに沿って落ちている。
息ひとつで形が変わる。
その儚さが、直哉にはたまらなく“良い”。
(花嫁の着物も、今の着付けも……どっちも“隙”が上手いんや。)
美しさとは整っていることではなく、崩れかける一歩手前の緊張だと、直哉は昔から知っていた。
見せるでもなく、隠すでもなく、ただ歩くだけで崩れかける襦袢。
着物というのは、そういう布だ。
仁美が少し下を向いたとき襟元がふっと開き、白い首筋が静かに光を吸った。
(……せやから顔、伏せんな言うたやろ…。他の男に見せびらかしてるんか思うたわ。あざといで。)
それでも直哉は、その隙に手を触れられるのは自分だけだと知っている。
「っ!!」
また顎を掴まれて顔を上げさせられると、直哉の唇が押しつけられる。
そして無造作に襟元から大きな手が入り込んで、長襦袢の下の肌に冷気が入る。
「んっ…直哉っ!」