第3章 愛と義務
「禪院家や言うだけやったら、こんなに集まらへん。仁美の“実家”と“信用”があるからこそや。」
財閥たちが深く頷く。
「……まさにその通りですわ。」
「禪院家の若当主夫人に挨拶できるだけで、本望です。」
京都の華やかな座敷が仁美を中心に回っていた。
胸の奥がそっと震えたが、直哉がそっと背に触れるだけで、その震えを静かに落ち着かせる。
「仁美。胸張っとき。今日のこの席……全部、あんたの手柄や。」
舞妓のだらり帯が揺れ、芸妓の扇が夜を耽美に切り取る中、仁美は直哉の隣で気づく。
——今夜の禪院家の栄華は、自分が連れてきた“力”で輝いている。
これは、禪院家の妻として生きる覚悟と重さを初めて肌で感じた夜だった。
(うち……禪院家の嫁で。実家の後ろ盾で、こんだけ人が集まっとるんや。)
そう思った矢先だった。
直哉の反対側、彼に近い位置で控えていた芸妓のひとり白椿(しらつばき)という名の芸妓が扇子をゆっくり開きながら、ちらりと直哉に目を向けた。