第1章 壊れぬ妻と飽きない夫
直哉は「はーい」と子供じみた声で返し、そのまま去っていく。
仁美はそんな直哉を見送ると、目を細めて部屋の中に再び入った。
シーツの上には、まだ女がいた。
肩にバスタオルをかけただけの格好で、仁美 を見た瞬間、あからさまに眉をひそめる。
「……あー、奥さん? 悪いなぁ、旦那様借りてもうて。」
わざと勝ち誇ったように笑って見せた。
“子供を持っていない正妻”への侮蔑が露骨に滲んでいる。
「直哉くん、優しかったで? ちゃんと満足したみたいやし。」
仁美 は黙ったまま、2個目の床に落ちているゴムの袋を拾い上げ、くしゃ、と無造作に握り潰した。
「……そう。良かったなぁ。」
「ふふ、奥さんには出来ひんこと、いっぱいしてあげたから。」
挑発するようにバスタオルをズラし、足を組み直す女。
「跡取り欲しいんやったら、もっと大事にせなあかんのちゃう? 私みたいなん――」
「――あの人、ゴム付けてるけど。」
仁美 の氷のように静かな声が女の言葉にかぶさった。