第2章 奪われた初恋と手に入れた女
自分でも驚くほど素直な声が出た。
杯を交わす儀式のあいだ、直哉はほんの一瞬、誰にも見えない角度で 仁美 の手に触れた。
その指先の温度が、“ここにおる”という事実だけを静かに伝えてくる。
(……これ、幸せって言うんかな。)
胸の奥がじんわりとほどけた。
政略で決まった未来も、禪院家に嫁ぐ覚悟の重さも、呪術師としての宿命も、その一瞬だけは遠くに霞んだ。
直哉の笑顔が、ただ眩しくて。
まるで自分だけを映しているようで。
(……うち、直哉を選んだんやね。)
静かで確かな想いが胸に満ちた。
悟との過去も、
呪術家としての苦さも、
全てを押しのけるように――
自分の選択だけがそこにあった。
金色の陽が降りそそぐ儀式殿の奥で、禪院直哉と 仁美 は初めからそう決まっていたかのように並んで立っていた。
その瞬間だけは、確かに幸せと呼べるものがそこにあった。